昼寝から目が覚める
達成感の中でする昼寝は最高と③で書いたけど、目が覚めたときの話も書いておく。
起きたらまだ夕方だった。
ぼんやりと天井を見ながら「あ、走り終えたんやな」という感覚がじわっと戻ってきた。
夢じゃない。ちゃんとゴールした。太ももと足の爪はまだじんじんしてるし、フェイタス的湿布の匂いがするし、現実感はある。
完走した、という事実が昼寝を挟んでもちゃんとそこにあった。
友人も同じ部屋で寝ていた。起こしてしまうのも悪いと思いながらごそごそしていたら、向こうも目が覚めたらしく「どこか行く?」という話になった。
足はボロボロやけど、せっかく石垣島にいるんだから動かない手はない。ということでレンタカーでドライブに出かけることにした。
琉球観音埼灯台とサザンゲートブリッジ
最初に向かったのは島の西にある琉球観音埼灯台。
灯台のそばは景色がよかった。海が広くて夕方の光が水面に反射している。
走り終えたあとにこういう景色を見るとなんか余計にしみる。体がしんどい分だけきれいなものがきれいに見える気がする。静かで風だけが通り過ぎていく感じだった。

次に友人が「あそこ行ってみよか」と言いだした場所があった。サザンゲートブリッジという橋で、渡った先に小さな島がある。
「橋があるってことは何かあるはずやろ」と私が言うと、友人はなんとなく笑っていた。
あとで聞いたら、この島に観光的なものは何もないことを知っていたらしい。でも他にやることもないから行ってみよか、という判断だったようだ。
渡ってみた。
何もなかった。
本当に何もない。店もない、人もほぼいない。ただ、ちょっとした旅客船のターミナルがあるだけだった。2人でしばらく呆然と立っていた。
「なんもないね」「うん、なんもないよ」
それだけ言い合って橋を引き返した。でも夕日はきれいだった。何もなかったけど、それはそれでよかった。足が痛いのにわざわざ来て何もなかったという事実は今となってはいい思い出だと思う(たぶん)。
2日目の居酒屋│今日は泡盛も解禁
夜は居酒屋2日目。
前日はレース前だったので飲みすぎずに切り上げた。でも今日は違う。完走した翌日の夜は気にせず飲んでいい、そういう日だ。
地ビールから始まり、オリオンビール、そして泡盛も飲んだ。
前日は手を出さんかった泡盛に、今日はちゃんと向き合った。
料理はイカ墨焼きそばが美味しかった。沖縄に来るとよく食べる。そのほか定番の沖縄料理もいろいろ頼んでたくさん食べた。
途中、お腹の調子が少し怪しくなる場面もあったけど、これはもう仕方ない。うまく付き合いながら(何度かトイレに行きながら)なんとか無事に過ごせた。
完走した日くらいはゆっくり食べさせてほしいとは思うけど、まあ仕方ない。
周囲を見渡すとマラソン参加者らしき人たちがあちこちにいた。みんな楽しそうに盛り上がっていた。完走した人間だけが持てる、あの独特のテンションがある。
ただ観光で来ただけではこの感じにはならない。
しんどい思いをして走り切ったからこそ、この夜の楽しさがある。
「生きてるってええな」
大げさかもしれへんけど本当にそう思った。
翌日は夜の飛行機で帰るのでまだ時間はある。でも朝から観光したいので、ほどほどで切り上げた。
翌日の観光│川平湾と漁港の食堂
翌朝、荷造りを済ませてレンタカーで出発した。
夜の飛行機までの時間を使って島をぐるっと回ることにした。友人は沖縄本島へ帰る便なので、お互い別々の飛行機だ。空港で解散するまでの時間を一緒に過ごした。
最初に向かったのは川平湾。
石垣島の観光スポットとして必ず名前が出てくる場所で、実は20代のころに石垣島を訪れたときにも行ったはずなのに、まったく記憶に残っていなかった。
それくらい若い頃の自分には刺さらなかったんやろうと思う。
改めて見たらきれいだった。
海の色が独特で、エメラルドグリーンというか青緑というか、写真で見るのとそれほど変わらない本物の色だった。
ここまで来てよかったと思える景色というのはそうそうあるもんじゃない。

バンナ公園にも寄った。島全体を見渡せる展望台があって、海と街と山が一度に見える。風が通り抜けて気持ちよかった。


最後に北の端にある平久保崎灯台まで足を延ばした。
島の端っこまで来たという感覚があり、観光客もチラホラ、石垣島って広いのを実感した。

漁港の食堂で食べた昼ごはん
観光の途中、昼ごはんを食べに漁港の近くにある小さな食堂に寄った。
友人が連れて行ってくれた地元の店で、席数も多くない、メニューも多くない。
しかしカレー味の沖縄そばがあった!
食べてみるとまあ普通のカレー味(おいしいですよ)。
地元の人も新しい味が食べたくなるのかもしれない。


1月なのに外の日差しは暖かくて、時間がゆっくり流れているような感じがした。急ぐことは何もない。ゆっくり食べながら島の人たちの日常にちょっとだけ触れたような気がした。
島の人に「ぜんぜん触れてないわっ」って言われそうだけど。
空港で、握手して別れた
空港に着いたあと、お土産を買ってからお互いの搭乗時間まで余裕があったので、空港の店で最後の飲み会を開催する。疲労感と満足感と寂しさが混じった良い時間だった。
友人の搭乗時間が先だった。
「また一緒に走ろう」と言い合って、握手して別れた。
それだけだった。でも、この1年半のことをなんとなく思いながら握手したのは自分だけじゃないと思う。言葉にはしなかったけど。
友人が搭乗口の方向へ歩いていくのを見送って、数十分後の自分の便を待った。
石垣島マラソンが終わって
帰りの飛行機の中で今回のことを振り返っていた。
ひと言でまとめるなら「来てよかった」それだけ。
マラソンを走ることも、友人と再会することも、石垣島をちゃんと観光することも、全部ひっくるめてこの旅が良かった。がんになっても、手術しても、後遺症が残っても、こういう時間を持てることが今の自分には大事なことやと思っている。
あの入院中から「回復したらやりたいことをやろう」と思ってきた。石垣島マラソンはそのひとつだった。走り終えてみて、やっぱりやっといてよかったと思う。

走り終えた足の爪は歩くと鈍痛が走る。数週間したら真っ黒に変色して剥がれるんやろうな、と思いながら窓の外を見ていた。思い出に残ってちょうどいいかも。
そして宮古島へ
石垣島マラソンを完走した夜、友人と居酒屋で飲みながらこんな話になった。
「宮古島も良いよ」
走り終えてまだ数時間しか経っていないのに、もう次のことを考えている。でも、それくらいこの経験が良かったということでもある。
その後、実際に宮古島のハーフマラソンにエントリーすることになる。
ただし、今度は一人で。
友人が直前にキャンセルになってしまい、完全なひとり旅になった。
石垣島で「一緒に走る人がいる」ことの心強さを十分に感じていたあとで、一人で走ることになるのはちょっと戸惑いもあった。
でも、行かない、という選択肢はなかった。
それはまた別の話で。

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