完全一人旅の宮古島マラソン、いよいよ本番当日です。
早朝の伊良部大橋からレーススタートまで、10キロ過ぎの「人生トップクラスの感動」、15キロ過ぎからの地獄、ゴール後のリアルな気持ち、そして2日目の一人居酒屋まで。今回で全部です。
早朝の伊良部大橋と大渋滞│緊張する間もなくスタート
レース当日の朝は早起きして車で会場へ向かった。
天気は快晴。気温も暖かくて、11月とは思えない。
伊良部大橋を渡るまでは最高だった。あのバスクリン色の海が朝の光を受けていて「よっしゃ、今日走るで」という気持ちが自然と出てきた。早朝の橋の上、車も少なくて清々しい。一人で来たことも、このときだけは悪くない気がしていた。
「このまま橋の上をゆっくり走ったらどうやろ」とか思ったりして、なかなか良い気分だった。
問題は橋を渡ってから。
会場に近づくにつれて車が全然動かなくなってきた。参加者全員が同じ方向に向かうんだから考えたら当たり前なんですが、そのときは全然気づいていなかった。全然進まない。どうなるかと思いきや、なんとかスタート20分前くらいに到着(本当は1時間前に到着するつもりだった)。
だいぶ余裕を持ってホテルを出たのが結果的に良かった。
たぶんスタートに間に合わなかった人も相当いたと思います。
運営側もたぶん同じくらい焦ってたと思う。レース前から小さなドタバタがあった。
そしてスタート前の独特の緊張を味わうことなく出発。

スタートからしばらくは観光気分
なんとかスタートして、最初の数キロは気持ちよく走れた。
天気がいいのでスマホ片手に気になった景色で立ち止まって写真を撮ったりしていた。
LINEで走っている最中の写真を友人に送ったりして、なかなかゆったりしたペースで進んでいた。
マラソンというより観光しながら走っている感じ。
離島のマラソンの良さって、コース自体が観光になっているところだと思う。
ゴールを目指しながらでも景色が次々変わってくる。
ただの観光で訪れたとしたら車で一瞬で通り過ぎてしまう景色。
そんな景色を見て、いろいろ物思いにふけったり、その土地の過去の歴史を想像したりしながら旅を自分の記憶にしていく。
そして沿道で地元の人が「頑張れー」と声をかけてくれたりもします。
こういうのが参加してよかったと思う瞬間の一つです。

10キロ過ぎ、17ENDで見た景色│今まで生きてきた中でトップクラスの感動
10キロを超えたあたりで、17ENDのポイントに差し掛かった。
これは今まで生きてきた中でもトップクラスの感動だったと思う。大げさでもなんでもなく。
青い空と青い海がひたすら続いている。水平線がどこまでも広がっていてそれだけしかない。遮るものが何もない。空と海の間に線が一本引いてあるだけのようなシンプルな景色。

ここを走りながら「来てよかった」と思った。
大病を経験して、いろいろあって、一人でここまで来て、今こうして走っている。
「来てよかった」「生きてるってええな」
言葉にすると薄くなってしまうけど、そのときはそういうことを言葉じゃなくて体全体で感じていた。まあ正直に言うと、誰かと共有したかった。
感動が大きければ大きいほど、隣で同じ景色を見ている人が欲しくなる。
リアルタイムで「これすごいわ」と言い合える人が。
あとでこの景色を思い出しながら一緒に酒を飲める人が。
今回の旅でずっとついてまわった感覚が、このとき一番強くなった。
15キロを過ぎてから本当のしんどさが始まった
17ENDの感動を胸にさらに走り続ける。
変わってきたのが15キロを過ぎたあたり。
まず暑さが堪えてきた。離島の道は遮るものが少ない。高い建物がないので日差しがそのまま直撃してくる。それまでもできるだけ日陰を選んで走ってきたけど、そもそも日陰がほとんどない。途中で倒れている参加者もいたので熱中症になってしまうことも怖かった。
足も少しずつ痛みが出てきた。

そしてコースが直線的になってくるのが精神的にきつい。
5キロなんて普段は余裕なのに、このときは倍以上に感じた。ゴールがなかなか近づいてこない。気づけば何度も歩いていた。「走っているマラソン参加者」から「歩いているおっさん」に格下げされた瞬間が何度もあった。でも、やめようとは全く思わなかった。
そのとき頭の中にあった言葉がある。
「これを完走しないと、過去の病気は克服できない」
これは石垣島マラソンのときも思ったことで、もう自分の中では脅迫観念に近い。
そしてもう一つ。
「病気を乗り越えて今こうやって走れていることは幸せなんや」
自分で自分に言い聞かせながら、足を動かし続けた。かっこいいことを言っているように聞こえるかもしれないけど、実際は歩いたり走ったりを繰り返しながら、ただひたすらゴールを目指していた。内なる言葉がかっこよくても、外見はただのしんどそうなおっさんである。
ゴール。達成感よりも「助かった」が先に来た
ゴールしたときの正直な気持ちは達成感よりも安堵だった。
「ああ、やっと終わった、助かった」
無事に完走できた、それに尽きる。
足の指の爪は少し内側に刺さって出血していた。
太ももも筋肉痛のような感じで、足がまともに上がらない状態になっていた。
ゴール後しばらくは車まで歩くのもしんどかった。
周りを見ると、知り合い同士でたたえ合っている参加者がいる。
ワイワイしながら「よかったな」「おつかれ」をやっている。

「俺もあんなんしたいな」
完走した達成感と誰かと共有できない寂しさが同時にあった。
友人にはLINEで完走を報告、すぐに返信があって褒めてくれたけど、実物がいないとやはり物足りない。
まあでも完走はした。それだけは確か。
達成感と心地よい疲労感があって、しばらくゴール前で他の参加者を眺めていた。
ゴール後、観光する体力なし│いらぶ大橋海の駅と東平安名崎
ゴール後、車で宿へ帰る途中、ビールとおつまみを買うために、高台にある「いらぶ大橋海の駅」に立ち寄った。
絶景ポイントらしいので少し眺めを楽しむつもりだったけど、足がかなりしんどくて長居できなかった。景色よりも疲労が勝っていた。観光する体力が残っていないとはなかなか情けない。
帰りに渡る伊良部大橋は素敵だった。完走の満足感に包まれながら橋の上を走るのは、朝の渋滞とはまた違う気持ちだった。
ホテルに戻ってしばらく昼寝をして、夕方前から東平安名崎灯台までドライブした。
宮古島の東端にある灯台で、名所らしいので行っておこうという感じで向かった。夕方から曇って風も出てきたけど、まだ雨は降っていない。
灯台を見て海を見て、正直そんなに大げさな感動はなかった。17ENDのあとに東平安名崎を見ると、どうしても比較してしまう。17ENDが反則すぎた。
2日目のひとり居酒屋
前日の一人居酒屋については②の記事で書いたとおり、「できたけど、微妙」。
入口近くのカウンターで落ち着けなくて、1時間もかからずに退散。ビール2杯に料理3皿、そそくさと退店。これを達成と呼んでいいのか自分でも怪しいところではある。まあしゃーない、明日がある、と思いながらホテルへ帰っていたのが昨日の話。
2日目は違う。
繁華街の地形がわかっている。前日どの店が自分に合わなかったかもわかっている。今日は違う店を探す。裏通りを歩いていると、早めに入りやすそうな看板の店を見つけて飛び込む。
通されたのはカウンターではあったけど、奥まったところで居心地がいい。メニューも豊富。隣にも一人客が来ていて、なんか話しかけようかとも思ったくらいだ(結局やめたけど。話しかけるハードルはまだ高い)。
飲みながら今日走ったコースの写真を見返した。17ENDの景色、苦しかった直線、ゴール後の足。写真を見て、ああ今日こんなことがあったなと、一人でじわじわと浸った。
一人マラソンと一人居酒屋の両方を達成した夜だった。
「俺はついにやった」と思いながら飲んでいた。たまに周囲の客がワイワイやっているのを横目に見て「やっぱ思い出の共有は大事やな」と思ったりもしたけど、それはそれとして今日の自分はわりとよくやった。
1時間以上いて退店したとき、向かいにもいい雰囲気の店があった。2軒目に行こうかなと一瞬よぎった。でも「それはまたいつかの楽しみにとっておこう」と思い直してホテルへ帰る。
まだヘタレの部分は残っている。でもいきなり全部できるようにならんでもいい。
この旅に点数をつけるなら、85点
翌日は打って変わって結構な雨風の中、朝から車で観光地巡りをした。写真が全て曇っており爽快感がない。まあよいです、マラソンの時に晴れてたことだけで十分です。特に17ENDの景色は何にも代えがたい価値があったと思う。
飛行機待ちの空港でも時間があるので軽く一人居酒屋をしましたが…、なんだろう、こういう状況のときは何にも緊張しないんですね。不思議なもんです。
点数をつけるなら85点。
完全一人旅を経験して、一人居酒屋まで達成できたのは自分の中では大きかった。マイナス15点はやっぱり、貴重な経験を誰かと共有できなかったという気持ちから。
ただ、友人のキャンセルがなければそもそも「完全一人旅行」は成立しなかったわけで。あのキャンセルが今回の旅を作ったともいえる。複雑なところではあるけれど、友人には感謝しておくことにする。
やりたいことは、先延ばしにしないほうがいい
大病を経験してから自分の中で変わったことがある。
「自分が興味あることは、できるだけ実行しよう」という気持ち。
以前は「まあいいか」「また今度にしよう」と先延ばしにすることが多かった。でも今は、自分の気持ち次第でできることは積極的にやろうという姿勢を意識している。「意識している」であって「できている」とは言っていない。それでも以前よりはだいぶマシになったと思う。
今回の宮古島マラソンもその延長線上にある。
やりたいことは先延ばしにしないほうがいい。50代になってもまだ新しい経験ができる。知らなかった自分を知れる。今回の旅はそういうことだった。
一人旅で、一人マラソンで、一人居酒屋。全部一人だったけど、全部自分でやった。
それで十分じゃないかと、帰りの飛行機の中でそんなことを考えていました。


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